曲とかテーマのある演奏をやらないので、レパートリーというものが我々ysmには無い。3人で同時に何も決めず即興演奏を始めることが多いが、この日は、メンバーそれぞれが演奏の方向性を提示する、ということで、Bassソロから始めるトリオ、Drumsソロから始めるトリオ、Saxソロから始めるトリオ、というやり方を試みた。どういう順番でその3曲をならべるか、というステージ構成とか、前にやった曲がどういう終わり方をしたかで、次のソロをどんな感じでやるかは、各自の判断による。そこには臨機応変さが求められる。なので「こういうソロをやろう」と前もって考えてきたことをやればいい、というわけにはいかないのである。
ysmの演奏のエンディングはわかりやすい。わかりやすくしないと3人で終わることが難しい。テーマのあるようなジャズ(フリージャズ)であれば、テーマが出ればそれが終わりの合図でもある。なので、エンディングはスッキリきまる。我々のようにそういうテーマの無い即興であれば、「みなさん、もうそろそろ演奏を終わりませんか?」という意思表示を、誰かが音で発信しないといけない。それを他の奏者が察知して、「ああ、終わろうとしているんだな。ならば私も終わる準備をしよう」とコミュニケーションが成立し、全員がその気になったときにめでたく演奏は終わるのである。我々はアイコンタクトとかで展開の指示を出すことを好まない。
我々演者の間で「あ、終わるな」ということが伝わるということは、たいていの場合、観客にも伝わる。「あ、終わるな・・・あ、終わったわ・・・やっぱり終わったな」という聴衆の感覚は、ある種の納得・満足感からカタルシスに導きやすい(と思う)。「あれ、終わったの?拍手していいの?」という迷いが残る演奏もあって良いし、そのほうが自然であるとも言えるが、なんとなくスッキリしない。人前でお金をいただいて演奏する以上、演奏を聴いて何らかのカタルシスを味わってお帰りいただきたいのである、私は。
そのおかげでか、アンコールが来た。ありがたい。全力疾走で2分強やらせていただいた。