Review:野道幸次(ts)+柳川芳命(as)@なんや

サックスのデュオで1stステージ39分、2ndステージ45分、それぞれ完全即興で1曲ずつ、という演奏会は、聴きに来てくれているお客さんへの配慮に欠けていたかもしれない。が、幸いこの日のお客さんは、百戦錬磨のリスナーや、かつて我々と一緒にプレイしていた即興ギタリストだったので、ついお客さんの気持を忘れ、奏者同志で納得いくまで吹き続けた。

何も決め事のない即興で、こんなに演奏が長く続けられたのは、野道幸次さんと自分とが、お互いのゆるぎない「磁場」をもち、対等な立場に立って、相手に迎合するのではなく、自分の演奏を全うしようという構えで臨んだためであろう。

我々は、「相手からの音がこう来たら、こう返す」といったような音の物理的なレベルで反応するのではなく、言わば「シンクロナイズド・ソロ」というような、それぞれが自分のサックス演奏の展開に主眼を置きつつ、互いに時空間を共有しながら演奏していることを意識して、演奏への深層レベルで共演したいと考えた。

かつて野道さんと、ギターの小林雅典さん、ベースの佐藤シゲルさん、ドラムの坂田こうじさん、私とで、即興集団「四夷(しい)」として何回か即興演奏会を行ったことがある。そのとき考えていたのは、「集団によるアンサンブルを支え、貢献するためのメンバー個人の演奏」ではなく、「メンバー個々の演奏がより自由になれるよう助長する集団」として、この「四夷」は在りたいということだった。

その考えは、この日の野道さんと私のデュオにも言える。いわゆるコール&レスポンスのように絶えず向かい合っているようなデュオではなく、それぞれが自分の描きたいように音を時空間に描く自由を認め合い、保証しあうデュオ、というスタイルに具現されていた。一聴して、ふたりがバラバラに聴こえるようなところもあるが、決して無視しているわけではない。「同じような吹き方」で合わせようとしなかっただけである。

今回、ふたりがそういう自由度の高い距離感で臨んだからこそ、約40分間、何の苦も澱みも無く吹き続けられたのだと思う。

2018-11-5--19-51-43