既に出来上がっているものを再現する音楽ではなく、その場その場で創造する即興音楽にとっては、「場・空間」が演奏に与える影響が大きい。ちょっとした体育館ぐらいある「蔵元・藤居本家」2階の「欅の間」の会場は、空間的な広がりから残響も多く、出した音と跳ね返ってくる音との対話ができるので、せかせかと空間を音で埋めようという気にならないのがいい。演奏に「溜め」が効く。そこへもって、富松氏の直径1メートル以上もある大太鼓の大音響、松原氏の朗々と歌い上げるソプラノサックスとの共演となれば、なおさら雄大なスケールで音を出そうという気になる。
富松氏のソロは、会場の床の上で大の字で寝転んで鑑賞させていただいた。太鼓の振動が体中に伝播し、リラクゼーションになった気がした。至福のひとときであった。スティーブレイシーがジャズ評論家の故・間章(あいだあきら)氏へのレクイエムとして作った「Blues for Aida」を、松原氏がシンプルに演奏するのを聴いていると、コンセプトの先走りとか、曲芸的なテクニックとかで聴く人を圧倒しようという心根が、いかにいやらしいことであるかを思い知らされる。奇をてらうことをやって注目を惹こうなどどいう姑息な考えに陥らないようにしたいものである。