Review:菊地行記/小林雅典/柳川芳命@特殊音楽バー・スキヴィアス

2019年9月7日(土)特殊音楽バー『スキヴィアス』(名古屋伏見・納屋橋)

・菊地行記(electronics)    小林雅典(ele. guitar)   柳川芳命(alto sax)

 

7月に小林雅典さんとスキヴィアスで共演した後、彼が「今後当分ライブがない」と言ったので「それなら一緒にやろう」ということで、このライブを決めた。対バンとして菊地行記さんと武藤宏之さんのデュオ『ANSONIC』をお願いしようということになったが、武藤さんが都合が悪く断念。そこで、菊地さんには単独で(対バンではなく)一緒に出てもらうことにした。

菊地さんとはカルヴァドス(名古屋千種、すでに閉店)の『地と図』のシリーズで、数回共演してもらって以来、長らくご無沙汰だった。名古屋のエレクトロニクス奏者というと、岡崎豊廣さん、小野浩輝さん、武藤宏之さん、そして菊地さんあたりが大御所で、以前から共演してもらっていた。名古屋では、80年代から電子音響の奏者とサックスやギター、ベースといった楽器奏者と一緒に即興演奏をやることは珍しいことではなかった。これは名古屋即興シーンの特徴と言ってもいいかと思う。フリージャズもアバンギャルドなロックも電子音響もダンスも映像も、何とでも敷居を超えて自由に交わってきたのが名古屋の良さだと思う。

さて、ひと口に「エレクトロニクス」と括ってしまうのは乱暴な話で、上述した4人をとってみても、機材が違う、音を作り出すシステムが違う、音の出し方が違う。出てくる音そのものが違う。それぞれの個性がようやく最近になってわかってきた。自分は電子音というとインベーダーゲームとかファミコンの音を連想してしまう世代で、何か薄っぺらで軽率なイメージがあった。ロックにシンセサイザーが使われるのにも違和感があった。テクノサウンドには心に響くものが無かった。しかしながら、エレキギターのフィードバック音や歪んだ音を聴くと血が騒いだ中学生だったので、電子音のすべてが気に入らないというわけではない。楽器奏者はやはりその楽器固有の音に支配されるが、エレクトロニクス奏者は音を創るところから始めるわけなので、その人の音の嗜好やセンスがもっとはっきり出るとも言える。たとえ電子音であっても、楽器音と同様に、美しく暴力的に挑発するような、琴線に触れるような、重厚でシリアスな世界に巻き込むような音楽を創っている人はいる。

菊地さんの音は一緒にやっていると風景が見えてくるところがある。その風景はシリアスで何かを訴えてくるような、あるいは問いかけてくるような・・・、そのあたりに自分は惹かれる。ノイジーな音であっても綺麗で磨かれた音だ。それに音のスピード感は楽器奏者には及ばないものがある。まさに疾走する音で、共演していてこちらの気分がハイになる。(菊地さんがラップトップの画面を見てパッドを操作しながら貧乏ゆすりが始まると、手が付けられない暴走が始まる。これがまた爽快である。)

小林さんのギター(最近はフライングVを多用している)は、ますます切れ味鋭いカッティングで、ストレートに突っ込んでくる。姑息なことをしない小気味よさがある。スキゾ(分裂的)とパラノ(偏執的)の両面を併せ持ったような彼の演奏が冴えていた。一方でギターを電子音響的に扱うこともあり、この日の菊地+小林のデュオでは、深淵な音響の世界を作り出していた。

この二人の出す多種多彩な音と共演するとき、サックスらしからぬ音を出す「特殊奏法」ばかりやっているわけにもいかない。(そういえば、お客さんの一人に「サックスで・・・・みたいな音出してましたね」と、最近研究しているある奏法を見事に言い当ててもらえ、研究の成果があったと満足だった。)ノイズと共演するときによくありがちなフリーキーなフラジオで気合と根性を見せるようなプレイだけではもたない。サックス本来のもつ綺麗な柔らかい音を凶暴な電子音に重ねてみたりして、二人の音に埋没しないように奮闘した。

このトリオ、何かいろいろなポテンシャルを秘めている気がする。また、ぜひやりたいものだ。

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