2020年2月8日(土)大阪・梅田ムジカジャポニカ 「音楽ノ為ノ音楽会」
・コサカイフミオ(g/vo) 藤田亮(ds) 柳川芳命(as)
藤田亮さんがUP-TIGHTのギタリスト青木智幸さんを迎えての演奏会をムジカジャポニカ開催したのは、2017年11月だった。今回はその第2弾というべき藤田さん渾身の企画で、移転はしたものの同じムジカジャポニカでこの「音楽ノ為ノ音楽会」を開催することになった。
インキャパシタンツや宇宙エンジンでお馴染みのコサカイフミオさんは、藤田さんと私とでリリースしたデュオのCDの感想をいただけていることもあり、音楽上共鳴し合えるのではないか?というわけで、コサカイさんを迎えて一緒にやってみようということになった。それはもう半年以上も前のことだったのではないかと思う。長く温めてきた企画である。
自分の記録によると、インキャパシタンツとディスロケーションは、91年9月に明大前キッドアイラックホールで合同演奏している。「ノイズフォレスト」のシリーズで行われたものだったと思う。それからおよそ20年の年月を経て、2010年6月に名古屋K.D.ハポンで宇宙エンジンとディスロケーションとが対バンで出演し、同年7月には名古屋デイトライブでインキャパシタンツ、リョーケストラ、ディスロケーション、エレクトロ・ヒューマンゲルが出演したイベントで再会した、というわけで、数少ないが互いの演奏は聴いてきてはいる。が、少人数でじっくり共演するというのは今回が初めてである。インキャパシタンツでの凶暴なノイズを放射するコサカイさん、宇宙エンジンで曲を弾き語りをするコサカイさんの両方を聴いてはいたが、今回どんな楽器を使ってどんな演奏をされるかは当日の本番まで未知数であった。
ファーストステージは、3人それぞれが20~30分のソロを披露。藤田さんのドラミングはいつも無駄がない。シンプルでドラマティックである。数個の太鼓、数枚のシンバルから成るドラムセットで、それぞれの音がごちゃ混ぜにならず、各単品の純正の音が清廉に響いていた。
自分のソロは、意識的に展開を制御した部分と、吹いているうちに無意識的に流れ着いてしまう展開の部分とが4:6ぐらいの比率だった。自分にとって音が気持ちよく出すぎると、安易で饒舌すぎる嫌味な演奏になってしまう。思ったように音が響かず音が湧いてこないときは、やっているときは集中に欠いた散漫な印象が残るが、後で録音を聴くとそこが案外面白かったりする。即興演奏はどこまでも不可解な闇に包まれている。
コサカイさんは小ぶりのガットギター(エフェクト有り)での即興演奏の後。ハーモニカ入りの弾き語りの歌を1曲を披露。インキャパシタンツと宇宙エンジンの両極を擁するコサカイさんの音楽世界を味わえた。音楽表現のレンジが広いな。自分はどうしても自分の演奏スタイルに執着してしまうところがあるので、そういう自由な精神にうらやましさを感じる。
セカンドセットは3人で演奏する。藤田-柳川ラインは数多くやってきて強固にあるのだが、コサカイさんとはほとんど初共演である。なので演奏が始まって少しのあいだは、賭けのように音を投げかけては反応をうかがうというところが自分にはあった。が、しばらくして、誰からともなくギヤーチェンジが始まり、あっという間にトップギヤーまで登り詰める。もはや探り合いのときは過ぎ去った。そして、どんな音を投げかけても応え合う器があると認知した時点で、勝手に全身が機能し始め、奔放に吹くことができた。約35分間ほどの演奏の中には、ファンキーなビートが刻まれるシーンや、ブルースっぽいシーンが入り混じり、カラフルに展開していった。ブルースのシーンが一区切りついてドラムが残ってソロになり、それが途切れた時点で、客席から拍手をいただいた。ここで演奏を終わってもよいが、何か物足りなさもある。しばらくの沈黙の後、再びドラムが猛り始める。「そうだよな、やはりあそこでは終われないよなあ・・・」と共感し、即座にマウスピースを咥える。ギターも鋭角的に時空を切り刻み始める。1~2分程度だったがヒートアップして出すものを出し切ってエンディングを迎える。今度は長い沈黙の後に大きな拍手をいただいた。やることが無くなったらあっさり演奏を打ち切る。これは大事な心得だと思う。
とにかくいい音楽会だった。コサカイさんありがとうございました。藤田さんお疲れ様。前回のムジカのときに引き続きヤスウミさんの見事なPAに大満足でした。