Review: 野道幸次+柳川芳命@海月の詩

2020年3月28日(土) 名古屋・今池 海月の詩

・野道幸次(ts)      柳川芳命(as)

野道さんとは年に数回だが共演を継続している。「O3」から始まって「四夷」、「千円デュオ」、「烏合の徒」、あるいはイレギュラー編成の一過性ユニットなどで一緒に演ってきて、考えたらもう6年を超えている。にもかかわらず、近年やや乱発気味に音源をリリースしている自分だが、野道さんと共演した音源を一作も残していない。

今回、久しぶりにサックスデュオで共演するにあたり、世の中はかなり困難な状況にあった。新型コロナウイルスの影響でいくつかのライブが中止になり、この日(3月28日)東京では外出に対する自粛勧告もされていた。幸か不幸か自分の演奏会では、「密集」も「密接」も生じるほどお客さんが来るわけでもなく、いわゆる「ライブハウス」で起こっていることのイメージとはかけ離れているので、中止に踏み切るような判断には至っていない。

この日は無観客状態での演奏になることも十分想定されたので、これを機会に公開レコーディングをするというのはどうか、と思った。そうすれば無観客状態になったとしても、むなしさは無くなる。というわけで、録音を始めようと思ったときにお客さんが登場。初めは3人の方が来てくれ、後半にはもう一人この店常連のパフォーマンスのサイン加藤さんが来てくれた。めでたく合計4人のお客さんの前でレコーディングを始めた。

これまで野道さんとの「千円デュオ」では、30~40分切れ目なく吹き続けることが多かったが、録音物を聴く立場に立つとその尺は長すぎる。どんなに良い内容の演奏でも、聴いていて「まだ終わらないのか」「いつまで続くのか」と聴き手が思った瞬間に、その演奏は✖である。(と、個人的に思っている)なので、10~15分程度の尺の演奏を数テイク録ろう、ということだけ打ち合わせて、あとは一切打ち合わせをせずに始めた。

結果的に、前半のステージで3曲、後半のステージで3曲をやった。そういう場合、さっきやった曲調とは違うアプローチで次の曲をやろうとする心情はおのずと働くもので、野道さんも自分も6曲通しての構成をある程度意識して吹いたと思う。だが、それを口に出して伝え合うことはしなかった。しなかったというか、もうする必要などない域にふたりの関係は出来あがっていると思っている。

家に帰ってさっそく録音を聴いてみた。吹いているときは、それぞれが勝手に吹いていて散漫な感じではないか?と危惧したが、そのズレ加減、共鳴加減、同調加減、離反加減がよいバランスになっていた。それに、やわらかく流麗で優しい部分、機敏に畳みかけ合って猛る部分が良い感じでブレンドされていた。野道さんは、相手の演奏に安易に迎合したり相手の音をフォローしたりするようなことをしないので自由になれる。自分の出した音に追従されたり絡みつかれたりすると、その「しがらみ」から逃れようとすることで集中できなくなる。

サックスサウンドとしても、テナーとアルトそれぞれの持ち味が生きていたのではないかと思う。自分はちょっと前に中古で入手した吹奏楽やクラシックを目指す生徒ならまず間違いなく先生から薦められるフランスS社の定番マウスピース(オープニングも初任者おすすめのサイズ)を使った。それにそのマウスピースとの組み合わせで、これまた定番と言われるフランスのV社の3.5の硬さのリードを合わせてみた。やはり、定番は定番と言われるだけのことはあるな。これまでの自分の音とは違う音が出て新鮮な気分だった。

(ライブ中の写真は誰も撮っていなかったので、ゴーストVの黒田オーナー撮影のを無断で拝借し加工しました。)

野道ー柳川