Review:檸檬のテロル/美は乱調にあり@酒游舘

2020年9月26日(土) 滋賀・近江八幡 サケデリックスペース酒游舘

・美は乱調にあり

  やちり(as) 後藤博(el-gt, recitation)  小林雅典(el-gt) 佐藤シゲル(el-b)

・檸檬のテロル

  柳川芳命(as) マツダカズヒコ(el-gt) Meg Mazaki(ds/per) 後藤宏光(performance)

「美は乱調にあり」と仮のユニット名を勝手に付けたのだが、やちりさん、小林さん、佐藤さんの3人は四日市のサブウェイというスペースで毎月1回、自由参加型即興セッションを開催していて、そのタイトルが「美は乱調にあり」だったので拝借したという次第である。小林さん、佐藤さんの両名は四日市在住である。四日市と言えばこの人を差し置いてはならぬ、と詩人でギタリストの後藤博さんにも加わってもらった。

最初のステージを務めてくれた美乱調の4人は旧知の間柄なのだが、4人そろっての演奏を聴くことは今回が初めてのような初めてではないような・・・。近年体力衰弱傾向にあるという後藤氏の朗読の声は想定以上に張りがあった。あとの3人は朗読にはおかまいなく自由闊達、フリーキーに演奏する。詩の朗読が終わると後藤氏はストラトキャスターに持ち替えノイジーにかき鳴らし始める。小林氏はキレの鋭いカッティングで時空を切り刻み、佐藤氏は6弦ベースの歪んだうねりで重厚感を与える。そのヒズミ系音響空間から超越したように、やちりさんの淡々かつ朗々とした音数少ないフレーズのサックス音の反復が異世界を描く。それぞれの個性がアナーキーに放出された四重奏だった。

続く「檸檬のテロル」は今回が2回目の公演である。(前回も会場は酒游舘だった)第1回が丁度梶井基次郎の命日にあたる日だったのでこういうタイトルを付けたのだが、それを今回も継続して使った次第である。マツダ、柳川、Megのサウンドの組み合わせはこれまでも何度かやってきたが、これに後藤宏光氏のパフォーマンスが加わると「檸檬のテロル」になる。この酒游舘のスペースを生かしたパフォーマンスは後藤氏の真骨頂が発揮され、聴衆の目は彼の一挙一動に惹きつけられる。そのパフォーマンスの背後で演奏する3人は、後藤氏の動きに反応したりしなかったりで、パフォーマンスが優位に立ったりサウンドが優位に立ったりして、約43分、全即興でありながらシナリオがあらかじめあるかのようなステージになった。

出始めにマツダ氏家宝のギターアンプの調子が悪くなり、後藤博氏が持参したアンプに切り替えている間、サックスとドラムと後藤宏光氏の沖縄の三線で場をもたせた。しばらくしてギターが元気に入ってきたときはサックスが引っ込み、一気にマツダ氏のスペーシーな音響世界に転換。Megさんもドラム演奏、弓を使ったスクラッチ演奏、小物パーカッションの演奏と、いろいろなサウンドシーンを展開していた。自分はアルト一本で硬から軟、静から動、弱から強と一本調子にならないように吹奏した(つもり)。この日の演奏で感じたことは、メンバー皆「引きの妙」に長けていたということである。どういうタイミングで自分は「引き役」に回るか、その判断が良かったと思う。

途中でサックスのストラップのフックが壊れたので、立って吹くことが出来ず椅子に腰かけての演奏になったが、それも自分では新鮮だった。(このストラップは、亡くなった鶴田哲也さんの遺品で長く愛用していたが、フックがプラスチック性なので劣化のため壊れたのだろう。)そういえばマツダ氏もギターのストラップを持参するのを忘れて、奥方が気を利かせ急遽近所の楽器屋に買いに行ったそうである。いろいろアクシデント続きだったが、演奏やパフォーマンスの内容はとても良かったと思う。

最後、小説の「檸檬」の終末にあるように、後藤宏光氏が脚立の上に一個の檸檬を置いてステージから逃げるように去る、という演出で演奏も無事終了。

写真はKaoruさん、Megさん、柳川の撮影