Report: 藤山裕子ライブツアー同伴録

◆2020年11月20日(金)名古屋今池 Valentinedrive

藤山裕子(p) 谷中秀治(b) 坂田こうじ(ds) 柳川芳命(as)

◆2020年11月24日(火)京都熊野神社 Zac Baran old new

藤山裕子(p) クリストファーフライマン(tp) Meg Mazaki(ds) 柳川芳命(as)

◆2020年11月25日(水)大阪 堺筋本町 music spot SATONE

藤山裕子(p) 臼井康浩(g) 柳川芳命(as)

◆2020年11月29日(日) 西尾市吉良 jazz club Intelsat

 藤山裕子(p) 野道幸次(ts) 柳川芳命(as)

 

 一昨年秋、藤山裕子さんは、パートナーでありドラマーのレジーさんとの日本ツアーで、Megさんと私がホストを務める大津TIOの即興セッションに参加してもらった。その縁を機に、今年11月19日~12月19日までの日本ツアーを組むのに、Megさんも私もお手伝いをさせてもらった。今年はコロナウイルス感染拡大の影響もあって、レジーさんはニューヨークに留まり、札幌への里帰りを兼ねた藤山さんのみの単独ライブツアーとなった。

東京⇒名古屋⇒大津⇒金沢⇒富山⇒京都⇒大阪⇒長崎⇒福岡⇒近江八幡⇒吉良⇒東京⇒札幌 というツアーコースのうち、自分が演奏メンバーに加わったのは、名古屋、大津、京都、大阪、吉良の5か所であった。このうち大津TIOの即興セッションについてのレポートは、前回のブログに示したとおりである。

共演を重ねてきて、今まで自分のやってきた即興演奏について、いくつか見直す機会にもなった。挙げるなら、1曲の演奏時間を冗長にせず10分前後を基準とすること。デュオの形態で各共演者とじっくり向き合うこと。トリオやカルテットについては全くフリーにやるばかりでなく、展開をある程度決めた上で集団即興を行うこと。事前にどれぐらいの時間の演奏にするか確認しておくこと。など・・・。

自分もこれらのことは(いつもではないが)やってきてはいるが、演奏時間については近年だんだん長くなってきており、30分~35分となることが多い。(それ以上長くやると同じパターンの繰り返しになりがちなので、自分としての限界時間はこれぐらいにしている。)

考えてみれば、LPレコードを聴くことで慣れ親しんだ音楽は、片面20分前後。そこに2~5曲納まっているケースが多かった。(例外的に2枚組で4面通して1曲というのもあるが、一気に4面を通して聴いたことはまず無い)立場をリスナーに置き変えてみると、30分1曲と言うのは苦痛かもしれない。「1曲を聴く集中力は7分ぐらいだ」とかつて先輩バリトンサックス奏者に言われたことがある。演奏する側にしても、5分~10分で簡潔に一貫性のある即興演奏をやったほうが集中できる。そこで語り切れなければ、一旦演奏を終えて仕切り直して次の演奏をやればいいことだ。今回の共演を振り返ると、10分前後のデュオ、トリオ、カルテットは、どれもよどみが無くまとまりがあった。このことは今後の自分の演奏に生かしていこうと思った。

藤山さんの演奏について5回の共演で思ったことは、月並みな言葉になるがいつも「美しさが際立っている」と言うことである。ピアノの内部奏法をされたときでも、音の余韻とか響きや間の美しさが印象的だった。それは「音の出し損じ」が無いからだと思った。即興演奏なので、ときに自分の意に反する音が出てしまうことが(自分には)よくあるし、勢い余って出してしまう「蛇足音」「くどい言い回し」などもある。そういうものを削ぎ落とすことが、隙間と美しさを生むような気がした。音を出して埋めていくとき、音を止めて余韻を聴かせるときの配分が、藤山さんの演奏ではうまく制御されている。これは即興演奏に臨むときの「心の在りよう」の問題かもしれない。心の中の波風を沈めた中で始める演奏は集中力が感じられるものだ。力をフルに出し切るときと、セーブするときのバランスをうまくとれることが本当の達人である、と剣道の世界では言われているそうだ。力を出して出して出し切って、へとへとになる姿を見せるパフォーマンスに心を打たれることもあるだろうが、そういうのはいつか飽きられるように思う。

今回の共演者、坂田こうじさん、クリストファ―フライマンさん、臼井康浩さん、野道幸次さん、そしてMegさん。即興演奏のスタンスや志向・嗜好、メソッドはそれぞれだが、藤山さんのピアノと共演すると、それぞれ自由に即興演奏をしていながら「調和していく感覚」が生まれる。そして、空間的広がり、隙間の美しさが感じられるようになるから不思議だ。

(写真:坂田夫人)

バレンタインドライブ、TIO即興セッションでの谷中秀治さんのコントラバスは、共演者の音に対して攻撃でも守備でもないニュートラルな立場で、じわじわと関わって一体になっていくような感じがした。坂田こうじさんのドラムは、即興の方向を牽引していく機関車的なタイトなパワーがあった。打音にアクセントがあってヴァイタルだ。グループ全体のサウンドが引き締まる。

(写真:仲摩さん)

ザックバランでのクリストファーさんとのトランペット×サックスのデュオは本当に面白かった。それぞれの楽器から引き出せるソノリティーを駆使しての対話。接近したり離れたりの奔放な関り方は奇跡的だった。藤山さんとMegさんのピアノとドラムスのデュオは、この日のライブで一番白熱した対話だった気がする。ふとセシルテイラー「Aの第二幕」のセシルとアンドリューシリルの延々と続くバトルのイメージが浮かんできた。

(写真:岸田マスター)

SATONEで共演した臼井さんは、20年前にも藤山さんと共演したことがあるそうだ。即興演奏の引き出しが無限大の臼井さんのギターは、ソロではノイジーに、藤山さんとのデュオではスペーシーでリリカルに、と変幻自在であった。どんな即興言語を持つ人とでも瞬時に共有できるものを見つけて関わっていける点が、臼井さんの凄いところだ。藤山さんのソロには、ときに風景を見るような、ときに物語を聴くような、聴く者のイマジネーションを刺激するものがあった。

(写真:浅岡さん)

インテルサットで共演した野道さんは、共演するたびにインプルーブしている。アクの強いヘビーな演奏から、軽やかな涼風のような演奏まで、そのレンジが広くなっている。即興演奏に臨む野道さんは、ジャズを演奏するときとは明らかに違う地平(というか)次元にいるように感じた。この日は藤山さんのソロをじっくり聴けた。詩の朗読+ピアノ演奏~メロディックでダイナミックなピアノ演奏~マレットを使った内部奏法で見せた邦楽的な響き。聴きごたえのある構成美が印象的だった。