2020年12月5日(土) 東京・武蔵境 Cafe 810 OUTFIT
Session参加者:Meg Mazaki(ds) 齊藤直子(as) 川村威一郎(tp) 赤木飛夫(as) 山崎慎一郎(g) 森順治(as) 熊切寛(as) アカノシバヒト(p) 河本隆弘(ds) 勿論Maresuke(contrabass)
810が開店してから遅ればせながら初めて伺ったのが昨年10月。最低年に一回は「810 OUTFIT詣」をしたいと思い、今年は12月5日にソロ&セッションという形でMaresukeさんの店に行く。
何人ぐらい参加されるのか未知の状態で参加者を待つ。大津のTIOで即興セッションをやっているやり方で、店に来た人順で共演させてもらうことにする。自分は全ての参加者とデュオまたはトリオで演奏することにした。幸いTIO即興セッションの相方ホストであるMegさんも来てくれているので、まずは二人でオープニング演奏を行う。

最短1分、最長35分というのがこのデュオのこれまでの演奏時間であるが、この日はオープニングアクトとして10分弱の演奏。この店で初めてやるデュオ(After It’s Gone)に、Megさんが嬉々として叩いているのが目を閉じて吹いていてもわかる。そのうち拙者は潰されることだろう。

一番乗りに会場に来てくれた齊藤直子さんとアルトサックスデュオ。昨年秋に名古屋のSciviasでデュオをやって以来の2回目なので、お互い肩の力がほぐれてしなやかな関りだった。しっかり向き合って絡み合い、一体感を感じる演奏だった。近年女流アルトサックス奏者の躍進が目覚ましい。女子でなくて良かった。

これまで関東で演奏するときは何度かお客さんで来てくれて、演奏者の様子をその場で絵にしてくれている川村威一郎さんがトランペットで参加。ミュートで抑え込んだ音をミニマムな音数で散りばめる奏法は、空間の深淵さを感じさせる。確か「滋賀マイルス」という異名がある方である。なるほど納得。ペットも赤いし・・・。

いつもはドラマーがいる編成で共演することが多かった赤木飛夫(日本天狗党)さんとは、Maresukeさんに入ってもらってドラムレスのトリオで演奏。皆還暦を越えた「年長さん」たちの達者な演奏を「いぶし銀」などと言うなかれ。まだまだ世にはばかりますよ。

休憩の後、お茶濁しのソロを12分もやってしまう。その次のセッションにはギターの山崎慎一郎さんと初対面デュオ。いろいろなタイプのギター奏者と共演しているが、その多種多様さは他の楽器に勝ると思う。果たしてどんなアプローチをされるのかと、恐る恐る吹き始める。山崎さんはこの日エフェクターとかで武装するのでなく、ギターのプレーンな音色で語り掛けてきた。声を荒げるのでなく恫喝し合うのでもなく、じっくりと紳士的に深く語り合えた印象だった。

森順治さんとは77年か78年頃の「集団疎開」のライブ以来、何回も客席で演奏を聴かせてもらったし、近年は数回共演させてもらっている。そういう安心感から、全く無邪気に演奏できた。テンポの速い漫才のツッコミ役同士がまくしたてている感じ。後ろでドラムを叩いていたMegさんは、それが面白くてしょうがなかったそうだ。ボケ役にまわる間もなく8分弱で演奏終了。放置されたらいつまでも演奏は続くだろう。

アルトサックスの熊切寛さんとも初対面デュオ。Maresukeさんに入ってもらいトリオで演奏。しなやかに浮遊するメロディーで絡み合い、リリカルな音色で迫るタイプかと思いきや、間もなくフリーキーな音に豹変し、また柔らかでメロディックなフレーズで・・・。この伸びやかな自在性が面白かった。Maresukeさんのコントラバスが背後から挑発してくる。もっとやれと。

アカノシバヒトさんのマルチタレントぶりを再認識。この日はピアニストで参加。ピアノは10本の指で10の音が同時に出せるだけに音数の多さから演奏スピードは他の楽器に勝る。サックスは単音旋律楽器なので常に1音ずつ出すことしかできない。ピアノとやるときはフルスピードで音を出しまくる感じになるのだが、ピアノと応酬しているときのドライブ感にはまらない心地よさがある。アカノさん自身は、謙虚に「ピアノはまだこれから…」というようなことを言っていたが、セシルテイラーを越える日は近いだろう。

最後に登場してもらった河本隆弘さんも初対面。まばらな打音で始まり、そのペースでこちらもとつとつと吹いていたが、中盤あたりから重量感ある連打が雪崩のように押し寄せてきた。この雪崩に埋もれてはならぬと最後の力を振り絞り咆哮する(しか手が無くなった)。河本さん、今度やるときは拙者の燃料が満タンのうちにやりましょう。
私やMegさんが上京して演奏するたびに足を運んでくださる櫻井さん、20年ぶりぐらいに再会できたランダムスケッチの大島彰さん、昨年10月にも810に来てくれて閉店まで一緒に呑んで話し込んだSahoriさん。今回参加は無かったけれど、すっかりお馴染みになっているダンサーのMargaさん。ありがとうございました。楽しい夜でした。
楽しすぎて、サックススタンドを店に置き忘れてしまいました。それを取りに行くのを口実に、またセッションに出向かせていただきます。