Report : うつろ船「名古屋×関西」@K.D.ハポン

2021年1月11日(月・祝)名古屋・鶴舞K.D.ハポン

 長坂均(electronics,tp) タキナオ(映像アート) 山田いずみ・小谷ちず子・伊藤晴美(dance) 柳川芳命(as)  筒井響子(daxsophone) 佐藤シゲル(b) 吉田崇(per) 踝打無(g)

長坂さんの呼びかけで集まった、名古屋、伊賀、四日市、岐阜、大阪のメンバーによる、映像、身体表現、音(ギター、ベース、サックス、ジャンベ、パーカッション、ダクソフォン、ラップトップ、ヴォイス・・・)によるトータルメディアの即興イベント。こういうイベントにはK.D.ハポンの空間がふさわしい。これだけの人数の多彩な表現者が、中部・関西から一堂に会するのはめったにない一大ミーティングである。

タキさんとは初対面、筒井さんとは初共演になる。踝打無(くるぶしだぶ)さんは、ちあきひこの名前で昨年10月に天王寺TIN’s HALLで演奏したのを聴いているが、共演は初めてである。今回、長坂さんはトランペットだけでなく、エレクトロニクスでの演奏を初披露。ダクソフォンについては、20年ほど前に内橋和久さんと共演したとき、彼が演奏していたこの奇妙な音の出る楽器を初めて知った。筒井さんはそのダクソフォンに様々なエフェクターをかけていて、いっそう聴いたことない新奇な音が出るようにセットしていた。電子音響とアコースティック楽器が混然一体となる音響空間は、自分としては自由度が高く新しい発見ができるので面白い。

この日は次のようなメニューで進行した。

1 伊藤晴美+佐藤シゲル+長坂均+筒井響子

このセットでは、長坂さんもエレクトロニクスに終始し、3人の演奏者が電子音響を共同で構築するといった音楽になった。その音響の渦に伊藤さんが存在感ある躍動をする、という様相だった。

2 小谷ちず子+踝打舞+佐藤シゲル+吉田崇

吉田さんのパーカッションが入り、集団即興も途中からリズムパターンが出てきて陶酔の佳境に入る。小谷さんのダンスもしなやかで気品があり徐々にトランス状態に。

3 山田いずみ+筒井響子+柳川芳命

初めての筒井さんとの共演、音の面ではデュオなので集中して向かい合える。少したって山田いずみさんが梯子を下りてフロアーで踊り始めると、その動きに即興演奏の流れが操られる。いつも思うことだが、身体表現の人との即興では、その身体の動きはコンダクターのような役割に思える。筒井さんのダクソフォンによる人間の声にも似た奇妙なサウンドを耳にしながら、そして、山田さんの動きを目で追いながらの吹奏は、全くどこかに導かれる(召される)ような感じだった。

4 音表現の奏者全員にダンサー3人が随時参加

6人による集団即興演奏はめったにやらないのであるが、不思議とカオスにならず、整然として他者の音が耳に入ってきた。ここでは長坂さんはトランペットを吹く。電子音の渦の中で、サックスやトランペットなどの管楽器の音は、案外に映えるものである。

5 演奏者はデュオをリレー式に繋いでいき、ダンサーは自由に出入りする。

1~3で共演していない人と共演出来るように配慮して、それぞれの奏者の演奏が浮き出るようにデュオにしてみた。①踝ソロ~②踝+柳川~③柳川+佐藤~④佐藤+筒井~⑤筒井+吉田~⑥吉田+長坂

演奏者がこのような流れで音を出している間、観客として来てくれていた後藤宏光さん、月姫うさぎさんもステージに引き出され、3人のダンサーとでフロアーは酩酊か狂乱か、それとも無邪気な遊戯か?といったような状況になる。

以上、一連のパフォーマンスが展開される中、ずっとタキナオさんのビジュアルアートがハポンの壁面を覆っていた。色彩と色彩がゆったりと流動し、侵食し合い、混沌一体となり新しい色彩が生まれる。こういったビジュアルアートに包囲される中で、会場に居合わせた者たちは、知らず知らずのうちに感性を制御されていたのかもしれない。環境が人に与える心理的影響はあなどれない。