2021年6月26日(土) 滋賀・近江八幡 サケデリックスペース酒游舘
・哲太陽(b)+Meg Mazaki(ds)+柳川芳命(as)
・マツダカズヒコ(g)+木村文彦(打音)
両ユニットとも酒游舘では初めての演奏であるが、どちらもこれまでに演奏済みである。哲太陽+Meg+柳川は、2018年7月に開催されたイベント『時の隙間』(元・『海月の詩』店主の浅井一男氏が自身の還暦祝いを兼ねて主催したもので、後世、名古屋サブカルチャー史に残るに違いないイベントだったと思う。)で、初めて共演した。このときは15分程度の短いものだったが、好印象の出来だったので、以後、神戸Big Apple、京都Zac Baran、天王寺TINS HALLでライブをやってきた。
一方のマツダ+木村デュオは、2018年3月に酒游舘でやった『Three Mirrors(宮本隆・石上加寿也・木村文彦)』と『檸檬のテロル(マツダカズヒコ・柳川芳命・Meg Mazaki・後藤宏光)』の合同ライブの際に、対バンとして出会っている。そのときの互いの演奏に感じるものがあったことで(やや長い潜伏期間をおいて)この春にようやく大阪で単独デュオ演奏会を開催した。その動画は大変好評で(自分も視聴して惹きこまれた)あった。ぜひ生でも聴きたいということで今回の出演をオファーして、合同でやることになった。
我々、哲+Meg+柳川トリオは、もう何度も酒游舘で披露してきた柳川+Megデュオとは、ずいぶん印象の異なる演奏に思えたことだろう。特に『怪談と即興音楽』でしか聴いてない人にとっては、邦楽とデスメタルぐらいの違いを感じたのではなかろうか。哲太陽さんの影響力がいかに強いか、ということである。足でペダルを踏むことで、エレキベースのブリッジ近くの弦をピアノのハンマーのように叩く改造ベースを演奏する哲さん独自の奏法は、指やピックで弦をはじくのより数倍のアタックで弦を振動させるので、硬質で重厚でパワフルである。それが様々のエフェクターで加工されてアンプから出てくるときには、恐ろしいほどの暗さと重さを孕んだ騒音になる。こういう音に対してマッチを擦るより簡単に火が付くMegドラムと柳川サックスは、哲さんに徹底的に挑発され、一線超えれば気がふれるような心理状態で演奏するはめになる。Megさんのドラムはこういうラフ・ファイティングにうってつけである。この日の演奏の録音を聴き返したときに、ああ、この音楽、怪獣映画の破壊シーンか格闘シーンに使ってもらえないだろうか・・・と思った。

共演者変われば音楽変わる、というのは当たり前であるが、特に自由即興の音楽であれば、共演者との相互作用でどんな音楽になるのかは、聴く人は勿論、やる本人も分からないスリルがある。長年一緒にやってきた(1993年頃から)マツダ氏のギターも、まだ蔵の奥で眠っていたアイデアや技が、木村氏の打音パフィーマンスによって開錠され、万華鏡のごとく様々な音模様を描いていた。お二人のデュオを聴いて思ったことは、エモーションの波長が憎らしいほどチューニングされていて、演奏の場面転換の「妙」が見事なことだった。きっと前世では同じ釜の飯を食ってきたに違いない。木村さんの打楽器演奏は、ドラムセットそのものを再構築しては「打音」を探求し続けていることが伺える。それに生粋の即興パフォーマーだと思った、その自由な展開は天衣無縫である。演奏を聴き終わったときには、世界一周旅行をして様々な風景を見てきたようなカタルシスを味わえた。

写真撮影は、中嶋さん(滋賀県で耳の肥えたフリー即興系のリスナー)ありがとうございました。