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Report 真夏の夜の電撃咆哮@なんや

2021年8月12日(木) 名古屋 御器所 なんや

・小松バラバラ(咆哮) 武藤宏之(electronics電撃) Meg Mazaki(drums) 柳川芳命(alto-sax)

3年半前に、このメンバーで会場同じく「なんや」で演奏した。4人とも加齢に伴って体力・精神力が低下したかと思いきや、ますます御盛んで容赦ない音の放射だった。ここまで抑制を外してプレイできるメンバーだと、限界を超える瞬間に「もう今夜死んでもいい」というような陶酔感が味わえる。かつてこのブロクに、「圧倒的なスピードとパワーには、若者を陶酔させる魔力がある」というようなことを書いたが、中高年になってもそれは変わらない。ただし、聴衆をほったらかして、演者が日常の憂さを晴らすかのようなパフォーマンスはいけません。暴走する中高年であっても、冷静に自分たちのやっていることを見つめられる感性はちゃんと持ち合わせている。(と言い切りたい。)その証拠に、「時短営業期間なので、30分ずつ2ステージでやろう」という申し合わせに対し、1セット目30:04、2セット目30:47であったことが、録音のデータでわかった。勿論、誰も時計を見て演奏したわけではない。

また、曲中何度かあったクライマックスの収束後、あたりの空気を一掃するかのような場面転換が誰からともなく図られていたように思う。構成を意識してのことだと思う。

■なんやの店主のPUYOさんの感想を転記。

新しいものは、手に入れると嬉しい。眼鏡だったり、靴だったり、新品になると気持ちよい。楽器はでも手塩にかけてしかも一緒に育ってきたものだから、古いものがいい。いろんなことがわかっているし、そこからはいろんな音が出るし。新しい楽器も、でもやっぱりいいけどね。新しいマウスピースで臨んだ柳川さん、この日のための派手な音用にセッティング。キラキラしていたね。Megさんとの黄金コンビ。阿吽の呼吸に満ちているね。ここに、バラバラ君の笑えるくらいの気力と、暴力的ともいえる思いの武藤くんが加わって、新しいものが増えて、この日の演奏。互いに、敵に背中は取らせない演奏だった。

いつも励みになります。ありがとうございました。

■また、日頃から最前線のジャズをリサーチされ、この日もソーシャルディスタンスなどどこ吹く風、とばかりに至近距離で聴いて下さったリスナーの堀川務さんの感想を転記。

柳川さんのサックスの音から始まったフリーフォームインプロビゼーション先日、近江八幡サイケデリックスペース酒遊館でのライブ以来の再会ですパフォマーだったかおりんは聞き手、聞き手だった小松バラバラさんはパフォマーと入れ替わりましたが武藤さんのelectronics 凄まじいパワー全開で圧倒されました。僕は、なんやでのMegさんは8年ほど前の和田直さんガイさんの異種格闘技戦以来でしたがあの時の腕を伸ばしてのシンバル打とミュートで終わったあの時の記憶が蘇りました。4人の方素晴らしい真夏の夜のサティスファクションをありがとうございます。

あたたかい激励、ありがとうございます。

写真撮影はPUYOさん。

Report 語りと即興音楽「妖」@アニーズカフェ

2021年8月9日(月・振休) 京都 くいな橋 アニーズカフェ

平松千恵子(語り・三味線)、柳川芳命(alto-sax) Meg Mazaki(ds,percussion,gong)

演目「死者」~原作:ジョルジュバタイユ

  「鳥羽の恋塚 文覚上人発心譚」~脚本:平松千恵子

このシリーズ「妖」の2回目の公演で、アニーズカフェでは初出演になる。怪談という枠から抜け出し、アニーズカフェの店長タケノさんの「バタイユの「眼球譚」を平松さんの語りで聴いてみたい」というリクエストに、それは面白そうだ、と今回の演目を決めた。「眼球譚」はちょっと長いので、文章量から「死者」を選んだ。それでも語りだけでも1時間はかかる。平松さんのほうで翻訳文を少しアレンジしてもらってシナリオが出来た。

「死者」はバタイユにとっては短編で、わかりやすいストーリなのだが、文章を目で追って読んでいても、なかなか不可解で何度も戻って読み返さなければいけない部分がある。同じ人物を「作男」とか「ピエロ」と呼ばせたり、「伯爵」を「小人」などと複数の呼び方で書いてあるので、人物の点で混乱する。また隠語もピンとこないものも出てきて(フランス語の翻訳なのでしょうがないけれど)、かなり想像力を働かせないと場面を脳裏に描きにくい。果たして、初めてこの物語を聴いた人は、内容がよく理解できただろうか?何と言ってもこの物語の主人公の「マリー」の言動を通して、バタイユがテーマとしたかったことを理解するのはなかなか難しい。さながらエロスとタナトスという対極的なものが、実は人間の本性では表裏一体なのだ、というようなことかな?

「鳥羽の恋塚」は、登場人物も少なくシンプルなストーリーで、この話に出て来る「袈裟」は、「死者」の「マリー」とは対照的な女である。それぞれが選んだ死へのモチベーションも対極的に思えるが、実は深層ではイコールなのかもしれない。わからないが・・・。

Report フリーフォームジャム@パノニカNo.1

2021年8月7日(土) 岐阜市神田町 洋食屋パノニカ

ホスト:柳川芳命(as) サポート:木全摩子(ds)

参加者:小池輝(ts) 井上和徳(ts) Blacky(vo) 陽子(vo) 仁田豊生(p) 古田大地(p) 吉田英正(p) 後藤博(g) 清水温度(g) 佐藤シゲル(b) 新井田文悟(b) 谷中秀治(contrabass) 鈴木しげる(ds) 松添稔(ds) 広田淳(ds) 黒田ヒロム(ds) 後藤宏光(身体) Kaoru(舞) Tenn Chann(performance)

岐阜市神田町にある洋食屋パノニカで、初めてのフリー/即興系のジャムセッション「Free Form Jam at Pannonica」を開催。数年前、Meg Mazakiさんと大津のTIOで即興セッションを始めてみて思ったことは、地方にも即興演奏とかフリーフォームパフォーマンスをやってみたいという人が、案外いる、ということである。機会が無かったので縁遠かっただけである。であれば、岐阜でもそういう地下に眠っている人がいるかもしれない。ということでパノニカのママのサチエさんと相談しつつ、定期的に始めてみることにした。その第1回目である。

ありがたいことに、長年即興演奏の現場で一緒にライブをやってきた人たちが応援に駆けつけてくれ、地元から初めてお目にかかる人も数人参加してくれ、総勢19人の参加になった。普段はジャズの演奏でこの店に出演しているプロミュージシャンも入ってくれてとてもありがたかった。当初はパフォーマンス系の人の参加をどうするか迷ったが、サチエさんも柔軟に受け入れてもらえる感じだったので、解禁にしたところ3人の参加があった。

基本、各セット7分。どの方も3回は演奏していろいろな人と交わってほしかったので、時間はやや短いが、全部で12のセットを2時間半に納めるためには、7分という時間は妥当だろうと考えた。各セットの人数は、管・声、弦・鍵盤、打楽器をミックスしたカルテットに身体パフォーマンスを1人ずつ加えることにした。本当はデュオとかトリオぐらいの人数でやりたかったが、これも限られた時間内で納めるためにはやむを得なかった。

それぞれのセットについての感想、何が良かったとか、何が問題だったかとかは、各自が自己評価して次につなげてもらえれば良いことである。共演者がどんなアプローチをしてきても、それを柔軟に受け止めつつ、自分を拓いて即座に表現につなげていくことが求められるセッションなのである。そこには定石は無く、全てはやる者の主観で決まる。助言することなど何もない。ただし、何をやってもいいのだが、観る者、聴く者を魅了する何かを追究することは永遠にやり続けなければならない。手本もマニュアルも無い表現なので厳しいと言えば厳しい世界である。

以下、Kaoruさん、中嶋貴士さん、後藤博さんの撮影してくれた写真を整理して、セッション順に並べてみた。撮影と写真提供、ありがとうございました。

 

Report:水月(Luna+水谷浩章)/ Kaoru+Meg Mazaki+柳川芳命@酒游舘

2021年7月25日(日)滋賀・近江八幡 酒游舘

・水月<Luna(vo) + 水谷浩章(contrabass)>

・Kaoru(舞)+Meg Mazaki(ds) +柳川芳命(as)

Lunaさんと水谷さんのデュオ『水月』は、大阪、奈良での演奏を終え、近江八幡の酒游舘で関西ミニツアーの最終日を迎えられた。2年前の秋以来の酒游舘での演奏である。2年前には、藤田亮(ds)さんと私とのデュオで、このお二人のユニットと出演した。 (後に、この日の柳川+藤田デュオの演奏は『BURAIHA』というタイトルでCDリリースした。残部少数。)

今回は、酒游舘の広いスペースを生かして、身体表現のKaoruさんとサックスとドラムスというシンプルな編成で出演することにした。この3人の組み合わせは、今年2月に愛知県一宮市の『のこぎり二』というスペースで一度やっており、なかなか手ごたえがあったので、続編として行うことにした。

前回『のこぎり二』のときは、全即興で舞とサックスとドラムスが自由に2ステージやったが、今回はワンステージ30~40分の中で、無音の中での舞、舞とパーカッション、舞とサックス、3人フル出演・・・というようないろいろな場面が生まれるよう、前もって大雑把なシナリオを作って臨んだ。特に無音の中での舞は、息を呑むような緊張感がみなぎっていた思う。Megさんは小物パーカッションの微音からドラムセットでの激音まで、静から動のレンジの広いダイナミックな演奏を行った。リミッターを振り切って暴走する向こう側にある「何ものか」を体現しているようだ。Kaoruさんの舞は、着物と袴を身にまとい一見和的な印象を受けるが、動きの中には、ポイや手旗(?)などを用いた様々なダンスの要素が混じり合っていて、 躍動感あふれる One and Onlyの舞を生み出そうとしてしていると感じた。

続いて『水月』のノーマイクでの演奏。肉声とコントラバスの生音が、元は大きな酒蔵だった酒游舘の空間に響き渡り、ダイレクトに聴き手に伝わってくる。人の声はこんなに豊かだったのか、コントラバスのピチカートはこんなにも力強さを表現するものなのか、と驚かされる。声とコントラバスという質素な組み合わせでも、こんなにも聴きごたえある音楽が出来るのだなあ・・・。2年前に初めて聴いたときも、お二人の演奏の力量には圧倒されたが、今回はそれに加えて曲そのものの魅力を堪能できた。

最後、両ユニットが合同で即興演奏を行う。早く打ち上げに移行したいという思いがあったのだろう、皆しつこさをわきまえ、短めにまとめ上げる。やっている奏者・演者は勿論楽しかったが、お客さんも今日の二本立て上演のカロリー過剰なメニューのデザートとして楽しんでいただけたなら嬉しいことである。

写真は、小松バラバラさん、中嶋貴士さん、堀川務さん、坂田こうじさんが撮影してくださったものから拝借しました。ありがとうございました。

Report:ちあきひこ / 哲太陽+Meg+柳川@Annie’s CAFE

2021年7月22日(木・海の日) 京都・くいな橋 Annie’s CAFE

・ちあきひこ(gt)

・哲太陽(b) + Meg Mazaki(ds) + 柳川芳命(as)

三部構成で開催した。アニーズからの提案でトリオでの出演が決まり、さて対バンをどうするか?と考えたとき、1月に名古屋でも共演したが、短い時間で社交辞令の挨拶程度の共演に終わっていたちあきひこさんにオファーして、彼のソロのステージと、交流して4人でやるステージを設けようと思った。

第一部は、ちあきひこさんの生ギターのソロ。以前拝聴しとき感じた透明感のあるギターサウンドが、このステージでも心に滲みてきた。聴く者の心の中に情景を描かせるギター詩人であるなあ。小さな音から、強いアタックの音まで、そして空間的な広がりを感じさせる間、余韻・・・、それらがうまく溶け合っていて、心を和ませる。夜空の星を眺めて回想に耽っているような気分だった。

第二部は、哲太陽+Meg Mazaki+柳川のトリオ。先月の6月26日にも酒游舘で演奏した。音響空間が違うと随分印象が変わる。アニーズカフェではサックス用のマイクを立て、ステージで近距離の立ち位置で演奏した。PAを通しての音量・音質のバランスもよく、酒游舘のような残響は無いため、それぞれの音が際立ってタイトに聴こえた。自分としてはこのセットでは、かなりメロディラインを意識して吹いてみた。特に、出だしは恥じらいなく調性に乗って吹いた。だが、そのうちそれもあとの二人のパワーによって崩れ去り、フリーキーなブロウになる。もうこの3人での演奏は5回ぐらいやっただろうか・・・。手加減するとか、様子をうかがうとか無用になり、自分を出し切れる、出し尽くせるような繋がりになってきた。

第三部は、ちあきひこさんが生ギターからテレキャスターに持ち替えて4人で演奏。この組み合わせは初めてである。最初の5分程は、様子を伺いながら、何かを言いかけては反応を見る、というようなもやもやした感じだった。が、しばらくして、ちあきひこさんが自分の居場所をつかみ、徐々に存在感を示し始め、4人で絡み合いながらボルテージの高い演奏になった。ちあきひこさんのボトルネックのギター演奏は(そういえば、自分が共演してきたギタリストの中でここまでボトルネックを多用する人はちあきひこさんが初めてかな・・・。)金属的で切れ味鋭い響きがして挑発的だった。中盤から自然にビートが出てきて、グルーブする集団即興となる。やっているときはハイな心理状態なので、自然体でプレイしている気がしたが、帰ってから録音を聴いてみると、こりゃあ、なかなか激しいわ・・・という印象だった。それにしても、ギタリストの中で即興演奏に軸足を置いていて、自分と共演してくれる人はたくさんいるが、実際に同じステージでやってみると千差万別であるな。台本無しで全即興で臨むだけに、その人のバックグランドにある音楽的嗜好とか聴いて影響されてきた音楽とかが丸裸で出るのだろう。ちあきひこさんはよく歌い、よく語る。説得力あるギタリストだ、という印象を受けた。

Report:武藤祐志・木全摩子・大森菜々・柳川芳命@パノニカ

2021年7月18日(日) 岐阜・神田町 洋食屋パノニカ

・FISSION 武藤祐志(gt)ー木全摩子(ds)

・蠍座二人組 柳川芳命(as)ー木全摩子(ds)

・VALE TUDO 武藤祐志(gt)ー大森菜々(pf)

3組のデュオユニットの合同かつ交配的な演奏会。岐阜県はコロナ感染のまん延防止措置も終わり、定時の19時30分に開演。閉店の22時までゆとりをもって2ステージ演奏できた。久しぶりのことである。

前半に、上記のそれぞれのデュオを3組。後半は、異なる組み合わせのデュオをやって、最後に4人合同で演奏する、という流れで行った。前半のデュオは、それぞれ創り上げてきたスタイルがストレートに、かつ圧縮されて(時間的に10~15分の枠だったこともある)表出され、聴きごたえがあり、整然とした感じでスッキリしたエンディングで気持ち良かった。

後半は、前半にはない持ち味が、それぞれのプレーヤーから滲み出ていて、各自の音楽的なバックグランドに触れる良い機会だった。大森さんと木全さんのピアノとドラムによる、たたみかけるような小気味よいインタープレイ。大森さんと柳川のピアノとサックスは、抒情性のなかにしっとり歌い上げる感じ。武藤さんと柳川のギターとサックスでは、中盤からフォービズム的なラフファイトの絡み合い。とても面白かった。

最後、やや蛇足的だったかもしれないがカルテットでやってみる。最後は全員でやるというのは、ライブでよくある展開だが、フリー即興の場合、カオスのような音の洪水に、何をやっているのか分からなくなる、という失態がよくある。なので、こういう締めくくり方が決していいとは限らない。おそらく4人ともそういう意識があったのだろう。4つの音に隙間を作りつつ整然と演奏がスタートする。徐々にクライマックスへ移行し、ピークの後にクールダウン、一瞬の沈黙、また新たな展開へ・・・こんなストーリー性のある展開をまったく事前に打ち合わせることなく出来てしまうのは、それぞれが「即興道」の中で会得してきたものがあるからだろう。クールに自分の即興を制御できる感性と技がある、と思った。

写真はかおりん、知立から遠路バイクで駆けつけてくれてありがとう。

Report : ROW project CD リリース記念ライブ@バレンタインドライブ

2021年7月11日(土) 名古屋・今池 バレンタインドライブ

・野々山玲子(ds) 臼井康浩(g) 柳川芳命(as)

 ゲスト:宮本隆(b) 奥村俊彦(p) 直江実樹(radio)

昨年春、コロナ禍の中でライブがほとんど中止になった時期に、自宅で自分の即興演奏を録音し、それを聴いた他者が順に即興で音を重ねて作品を作る、というプロジェクトを野々山さんの発案で立ち上げた。その第1期のメンバー3人の試みを徐々に拡大していこうということで、第2期には、直江さんと奥村さんに加わってもらった。また第3期には宮本さんに加わってもらった。それぞれ多重録音して仕上げた音源はBandCampにアップしてきた。その後、CD化の話がもちあがり参加メンバーが同意してBandCampにアップした作品からセレクトしてCDをリリースした。

今回のライブはその発売記念として開催された。第1期~第3期のすべての参加メンバーが一堂に会して、ライブで演奏することになったわけである。謂わば通信制の学校の生徒たちがスクーリングで顔を合わせたようなものである。

座長の野々山さんのプランで、次のように演奏が進行した。

①柳川+臼井+野々山  (これはプロジェクト立ち上げのベーシックメンバーである。)

②宮本+直江+臼井+野々山 (ゲストを交えた組み合わせ。電気系)

③奥村+柳川 (ゲストを交えた組み合わせ。アコースティック系)

④直江ソロ→+奥村→+宮本→+野々山→+臼井→+柳川 (「大きなかぶ」のお話のように、一人ずつ加わって最後に全員になるという形態。プロジェクトの進行のように各自が自宅でやってきたことをライブでやる、というものである。)

楽器編成的に管・弦・鍵盤・打・電とバランスがよく、それぞれのサウンドと各プレーヤーの即興言語の異なりから、各自の演奏が集団に埋没することなく、きわだって煌めいていた。勿論、各楽器の問題だけではなく、即興で他者と共演していくうえで、アサーションとコーポレーションをバランスよく表出していけるメンバーであったことが良かったのだろうと思う。その結果、どのセットも演者一人一人が対等で、フロント⇔バック、リード⇔サイドといった階級的なものの無い、まるで理想社会のような音楽が展開された。

このPOW projectの第4期が現在進行形で行われている。再度オリジナルメンバーに戻って、もっと面白い多重録音の手順・方法は無いか?と模索しながらの試みである。これはあくまでライブ演奏とは違って、レコーディングのプロジェクトである。即興音楽生成の過程はライブとは全く違うが、出来上がったものを聴いてみると両者の違いがほとんど無い。そのことが自分にはもとても興味深い。ROW projectのCDを聴いて、これはライブでの集団即興演奏ではない、と誰が見抜けるだろうか・・・。

Report : 原田依幸+柳川芳命@なってるハウス

2021年7月10日(土) 東京・入谷 なってるハウス

・原田依幸(p) 柳川芳命(as)

なぜ原田さんとのデュオが実現したか?もう数年前から、日本天狗党の鈴木放屁さんに、原田さんとのデュオをやってみたら?ということを言われていた。そりゃやってみたい。やってみたいが原田さんがOKするかどうかはわからないな、と思っていて、そのままになっていた。

それから、なってるハウスで日本天狗党との交流ライブを何回か行ううち、マスターの小林さんからも、原田・柳川デュオをやらないかと言われた。原田さんが嫌でなければお受けしたいと返事をしてから数か月たち、ようやく双方の都合のあう7月の土曜日に決行することになった。

自分が二十歳の頃「生活向上委員会ニューヨーク支部」というLPをよく聴いていた。特に原田さんのピアノから始まっているB面を気に入っていた。生の演奏を初めて聴いたのも自分が20代の頃で、アケタの店でやっていた「集団疎開」(梅津和時・原田依幸 ・森順治・菊池隆)の演奏だった。次に聴いたのは80年ぐらいだったろうか、京大西部講堂での「生活向上委員会大管弦楽団」のライブだった。

それから30年ほど時は流れ、2009年の5月、毎年恒例の日本天狗党の信州国際音楽村の合宿セッションに原田さんが参加した。夜、原田さんは合宿に参加した一人一人と短いデュオをやってくれた。自分も吹かせてもらったが、おそらく5分もやっていない。

それから12年たち、なってるハウスで初共演となったわけである。開演まで原田さんはピアノに触れることはなかった。18時過ぎにファーストセットを始める。ピアノが出るのを待って吹くか、先に吹き始めるか?・・・前者を選択。ピアノは静かに入るか、激しく入るか?・・・前者だった。一呼吸か二呼吸遅れて吹き始める。あとは唯々ピアノの演奏に反射(反応ではない)して吹き続けるのみ。途中、自分はピアノの演奏にまとわりつき過ぎているのではないか?と気づき、ちょっとピアノと距離を置いて自分のやることをやるほうが、お互いにとっていいのではなかろうか・・・と思った。しかし、原田さんは強力な磁場をもっている感じで、しばらくするとまたピアノに反射して吹いている自分に気づく。もう、よけいなことを考えずに唯々ピアノに身を委ねるのがよかろうと、反射の連続でエンディングを迎えた。演奏時間は30分弱ぐらいだったと思う。

セカンドセットの出だしもピアノは静かに入ってきた。こんどは三呼吸か四呼吸おいて、ややゆっくり落ち着いて吹き始める。なるべく「ためる」「じらす」「言いかけて止める」という自分を戒める共演の基本方針を胸に刻み、ピアノに近づいたり意識的に離れたりしながら吹奏する。クライマックスか?と思われる場面では自分もアクセルをしっかり踏み込んで応酬した。セカンドセットも30分弱の演奏時間だった。短いと思うかもしれないが、原田さんの演奏は、「緩む」とか「淀む」ということが無く、恐ろしくインテンシブでテンションが持続するので、30分やれば出尽くしてしまう。そして、いさぎよく終える。自分もこのような演奏姿勢でありたいものだと思った。 いい経験が出来たと思う。 セットしてくださったなってるハウスの小林さん、前から原田さんとの共演を薦めてくれていた天狗党の皆さんにお礼を言いたい。

終演後、恐れ多くも原田さんに焼酎をおごっていただいた。

Report:照内央晴+神田綾子+柳川芳命@なってるハウス

2021年7月9日(金) 東京・入谷 なってるハウス

・照内央晴(p) 神田綾子(voice) 柳川芳命(as)

それぞれデュオでは共演したことがあるが、3人そろってやるのは初めてである。想定外の何が飛び出すかわからないスリリングなトリオ。

 3月に神田綾子さんと自分はセッション的にショートでデュオをやった。そのきっかけを作ってくれ、この日も聴きに来てくれた齊藤聡さんが、こんなレビューをフェイスブックに投稿してくれたのでそれを掲載。

 今年の3月に初共演した柳川芳命さんと神田綾子さん、そしてそれぞれとの共演歴のある照内央晴さんのトリオによる即興。さほど回数は多くないのかもしれないけれど、目新しいサプライズは期待しない。持ち味の発揮とテンションの維持は担保されている。

 ファーストセットでは、水面下に潜むアルトをソナーで探し当てたピアノが振動を与えるはじまり。これを視ていたヴォイスがずいと加わってくる。音を出すたびに事件を起こすアルトとヴォイス、和音でにじり進むピアノの三者が音のプラトーを作り出し、全員でそれを上にぐいぐいと持ち上げていく。強い塊の隙間にお告げのように入るヴォイスがおもしろい。絶えず音を突き上げるヴォイスとアルト、それに塊を解体して別の構造を作ろうとするピアノとの対比もまたおもしろい。終盤は全員が次第に低空飛行して着地点を見出した。ただ、柳川さんは息を止める前に悔恨のような音を出した。

 セカンドセットでの対比はまた違っていた。アルトとヴォイスとによるナラティヴ、それに呼応して世界に色を垂らしていき、光の粒で埋めていくピアノ。ただシンクロする組み合わせは変化もしていて、物語の呼吸をアルトとピアノとで合わせ、抑制からそれぞれの狂気にのぼっていく驚きもある。そして音世界の事件を包んでいたはずのピアノが事件の主犯になり、一方でアルトが音世界を包むような逆転もあった。中盤からは神田さんが世界の中心に逃げずに立ちはだかり、ふたりのエネルギーを吸い取っては別のナラティヴを生んだ。(終わってから『宇宙戦艦ヤマト』の「コスモクリーナー」のようだったと言って笑った。)たいへんな迫真性があった。照内さんはステージ上のありさまを横目で見て笑みを浮かべている。やがて柳川さんと神田さんは踵を返して鳥になり、照内さんは大きな慣性をもつピアノという生き物として最後まで走った。

 続いて、演者の照内さんの投稿から。

 今日もご来場ありがとうございました!まん延防止措置で20時閉店の為、演奏は30分と小休止挟んでの35分程、これはこれでややコンパクトながら、無駄を削ぎ落とし集中したセッションができる面もある。どちらかと言えば、アッパー系だったのかな、ところどころ遊び心ありつつも。神田さんと芳命さん、二人が超ハイテンションで凄いっ!な場面もあったし。以前はUP系だとどうしても余裕なくなりがちだったが、今日はそんな時にも俯瞰できるじぶんがいるような気がして、成長したんだな、と思った。初めての組合せだと、いい意味で驚くとか違和感を感ずるとか、ある。この頃新しい共演者との即興だとそれが感じられて嬉しい。新鮮なのだ。コロナ禍のいまだからこそのなにか、というのも、即興だからよけいにあらわれるように思う。そんな音を紡げたかな、と思う今日。

 今回のレポートはこのお二人のコメントで十分かな。久しぶりにフィジカルに暴走することへの快楽を味わいながら吹奏した。

Report:哲学/MegTan/浅野和恵+柳川芳命@Annie’s CAFE

21年7月3日(土) 京都・くいな橋 Annie’s CAFE

・哲学 <哲太陽(電子楽器)+宮崎学(民族楽器)>

・MegTan <Meg Mazaki(ds) +一談(pf)>

・浅野和恵(自作楽器+エフェクター)+柳川芳命(as)

3つのデュオユニットの演奏会である。つい一週間前に、哲太陽+Meg+柳川のトリオを酒游舘で演奏したばかりであるが、(意図したわけでないが)この日はそれぞれがそれぞれのパートナーとデュオをやるという形になった。哲学はもう数回の共演歴があるが、MegTanは2回目。浅野+柳川も2回目(といっても1回目は4年前にほんの短い時間の共演だったので、今回が初共演と言ってよい)である。

哲学の二人は、楽器といってもローテクなものや、電子楽器(+エレキベース)という非楽器を使った音響をメインにした即興演奏である。対するMegTanはピアノとドラムセットというどちらも洗練された西洋楽器によるデュオ。浅野+柳川デュオは、幽玄で異形な音響を発する自作楽器と、サックスという西洋の超メカニカルな旋律楽器とのデュオである。楽器の特性の違いから、デュオの在り方もそれぞれ異なっていて、その違いを楽しめるライブとなったと思う。公約数的に単純に言えば、「どんな音をどのように時空間に散りばめて、相手の音に重ねるか、それが面白いかつまらないか」ということであろう。

哲学の場合は電子楽器と民族楽器という対極的な性格の音、さらに人間の生々しい声が加わり、音の組み合わせの豊かさに目から鱗が落ちるような瞬間が随所にあって心が躍った。

ドラムとピアノという叩いて鳴らす似た者同士の楽器のため、至近距離での応酬、あるいは対話的(挑発的)な共演になり、そのスピード感とかエネルギーの衝突が爽快で魅力的だった。

浅野+柳川デュオは、対話的というのでもなく、音響の重ね合いというのでもない。お互いの存在を深く意識しながらも、それぞれが独白をしていくような関わり合いになった(と思う)。自分はエレクトロニクス奏者と演奏することが(フリージャズ系のサックス吹きにはめずらしく)多かった。岡崎豊廣、桑山清晴、菊池行記、武藤宏之、小野浩輝、鈴木茂流(永久持続音の頃)、Ko Takahashi(敬称略)・・・。他にも単発のセッションでやった人も何人かいる。

非楽器の人の演奏にサックスでどう絡むか?ということをいろいろ試行錯誤したこともあったが、結論として今思うことは、呼応しようなどとは思わず、その音響から受ける印象を触媒にして自分のソロをやればいい、ということである。そこには楽器奏者との共演には無い自由さがある。なので自分は楽しんで吹奏でき面白いのである。浅野さんの音(音響)はその変容していく様がとても繊細である。また、器機の操作だけでなく、叩く、触る、擦る・・・といった行為による演奏も加わっているので、情感を音に乗せやすい。それが浅野さんの固有性かもしれない。上に挙げた奏者(操者)それぞれのアプローチの違いは、漸くにして分かるようになった。いや、わかったつもりになった、という程度かもしれない。

演奏を聴いてくれた小松バラバラさんが、次のようなメッセージを送ってくれた。

  「今日はわたしには柳川さんの優しい音色が印象的でした。」

今後、小松さんと共演するときも、浅野さんとやるときのように優しい音色でやろうかと思った。しかし、小松さんとやるとき、それは難しいだろう・・・・。